九石絵里子と申します

 初めまして。九石絵里子と申します。
 「九石」と書いて「さざらし」と読みます。
 祖父の教えに従って日記を綴ることにいたしました。
 拙い文章ですから、お見苦しいところも多々あると思います。至らない点がありましたら、下のほうのコメントで指摘していただけると幸いです。
 

九石という苗字について

 私の苗字が珍しいと言われることが多いので、九石(さざらし)姓について少し補足しておきます。祖父の実家は栃木県芳賀郡茂木町九石です。つまり土地名がそのまま一族の苗字になったようです。小学生の頃、田舎に帰った時に「九石ってどういう意味なの」と祖父に尋ねたところ、次のように答えてくれました。
「”さざらし” とは “さざれいし” のこと。細かい石、小さな石という意味だよ。君が代にもあるだろう? ”さざれ石のいわおとなりて” とな。あれは “小さな石でも永い時を経ると大きな岩になる” という歌詞なんだよ。昔の人は石の成長を信じとったんだなあ。絵里子も日々の小さな努力をおろそかにせずに、こつこつと積み上げていけば、やがて立派な大人になれるよ」
 私はその説明を聞いて改めて良い苗字だなと思えるようになりました。ちなみに遠い親戚には「九石」と書いて「さざれいし」、「さざらいし」と読む人もいるそうです。
 

入学祝いと兄の決意

 2016 年 4 月 7 日。無事に入学式を終え、晴れて都立東池袋高校の一員となりました。中学の頃から仲の良かった住母家 絢都(すもげ あやさと)さんが同じクラスになって本当に嬉しく思っています。
 今日は祖父母が家に来て私の入学を祝ってくれました。家族が夕餉の席についたとき、祖父は「あらためて入学おめでとう」という祝辞に続けて、
「絵里子はもともと落ち着いていたが、高校生になってますます大人っぽくなったなあ」
と言ってくれました。
「昔から手のかからない子でしたから」
 母はそう言って微笑みます。
「遼太郎も高校3年。いよいよ受験生だな」
 祖父が兄に向かって問いかけるように言いました。
「うん」
と兄は短く答えます。
「りょうちゃんは勉強はよくできるんだけど、試験のときになると緊張しちゃうのよねえ」
 祖母が心配そうに語ります。
「昔から何かと手のかかる子でしたから」
 母はそう言ってまた微笑みます。兄が高校受験のときに緊張のあまりお腹を壊してしまって合格が危ぶまれたことを、祖母はよく話題にのせます。
「大丈夫だよ」
 兄は面白くなさそうに応じました。
「僕はもう昔の僕じゃないんだ。3年にもなったことだし、これを機に男らしく生きることに決めたんだ」
 兄は瞳に決意を宿してそう言いました。
「今までは男らしくなかったの?」
 私は素直な疑問を口にしました。
「ちょっとな。全体的にはかなり男らしかったんだが、少しだけ何かが足りなかったんだ。しかしその少しを埋めるためにまだまだ努力するつもりなんだ」
 兄は自らを納得させるように深く頷きました。
 祖父母も両親も、兄の言葉にはあまり耳を貸さない様子で沈黙を保っていましたが、私はそのように兄の言葉をないがしろにするのは失礼だと思い、
「偉いわ、兄さん」
と素直な気持ちで称賛します。
 現状に甘んじることなく、さらなる努力を続けようとする兄さんに心からの尊敬の念を抱いたのです。
「うん。ありがとう、絵里子。これからはダンディ兄さんと呼んでくれ」
 兄は私の目をみつめて、そう言いました。
「ダンディ兄さん?」
 私は今ひとつ兄の真意を掴めなかったので、思わず訊き返しました。
「ああ。これからはダンディに男らしく生きるんだ」
 兄は得意げに胸を張ります。
「わかったわ。ダンディ兄さん。これからそう呼ぶことにする」
 私がそう言うと、兄は嬉しそうに「ああ」と頷きました。
 そのとき、向かいに座っている父が溜息をついて首を横に振りました。
 ≫ 兄のさらなる決意